遺伝子組換え食品(読み)いでんしくみかえしょくひん

百科事典マイペディア 「遺伝子組換え食品」の意味・わかりやすい解説

遺伝子組換え食品【いでんしくみかえしょくひん】

ある生物の遺伝子の一部を種の異なる生物の遺伝子に組み込んで,本来持っていない性質を持たせた作物原材料とする食品。ウイルス耐性,除草剤耐性,害虫に対する毒素の生産能力,日持ちのよさ,草丈の短縮などの性質を付与することで,栽培コストの削減を図るのが目的。1994年米国で開発されたトマト〈フレーバー・セーバー〉が遺伝子組換え作物の実用化第1号。実が熟しても軟らかくなりにくいため,輸送しやすく店頭での日持ちもよい。以後,米国やカナダなどで開発が相次ぎ,米国では1997年−1998年度のダイズの全作付面積の10%以上を遺伝子組換えダイズが占める。 日本では1996年,厚生省が〈組み換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全評価指針〉を作成し,食品としての安全性や生態系への影響などをチェックすることになった。この結果,欧米のバイオ企業から申請のあった除草剤耐性ダイズ・ナタネ,害虫抵抗性バレイショ・トウモロコシなど4作物7品目の安全性を認め,同年から輸入が始まっている。国内でも開発が進み,輸入物とあわせて徐々に増えている。現在市場に出回っている遺伝子組換え作物の多くは食用油豆腐醤油,ビール,ポテトチップスなどの加工用原料に用いられるため,遺伝子組換え作物を原料にしている食品の表示義務化を求める要望が多く出されており,安全性は確認済みとして表示義務化には消極的だった厚生省も1999年8月,ダイズ,トウモロコシ,ジャガイモなどの関連28品目につき表示義務化を決めた(2001年4月から実施)。 米国,カナダでも表示義務はないが,EUでは一部にラベル表示を義務づけることが1998年に決まった。また,オーストラリアやニュージーランドでは明確なガイドラインを作成しているほか,オーストリアやルクセンブルクのように遺伝子組換え作物の輸入を禁止している国もある。このように各国で対応がわかれている事態に対して,安全性確保の面から遺伝子組換え食品の国際取引ルールの取決めを求める声が出ており,生物多様性条約加盟国の専門家会議などが検討,2000年1月バイオセーフティ議定書が採択された。
→関連項目JAS世界食糧サミット品種改良

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知恵蔵 「遺伝子組換え食品」の解説

遺伝子組み換え食品

特定の遺伝子を作物に組み込んで、農薬耐性、害虫抵抗性などの機能を付与された農産物、及びその加工品。生産性の向上や多収穫が見込めるので北米を中心に栽培が拡大している。しかし日本では、2006年1月に規制条例が施行された北海道を皮切りに、GM作物の栽培規制や交雑防止措置を定める条例が各地の自治体に広がりつつある。背後には消費者やNGOの指摘する環境・生態系への悪影響や安全性への不安がある。実際、00年10月のスターリンク(GMトウモロコシ、食料・飼料ともに未認可)混入問題以降も、05年6月に米国産輸入トウモロコシから遺伝子組み換えのBt10の混入が発見され、改めて分別流通の難しさを浮き彫りにした。また04年に晴海ふ頭でGMナタネの自生が初めて確認され、その後も各地で発見が相次ぎ、遺伝子拡散が現実化している。

(池上甲一 近畿大学農学部教授 / 2007年)


遺伝子組み換え食品

一般的には、特定の遺伝子を導入した作物を原料に用いた食品のことだが、明確には定義できない。食品は、作物の収穫物がほぼそのままの形で食されることもある。しかし、収穫物に一次加工、二次加工と手が加えられた加工食品や、これらの加工食品やその他の食材をさらに組み合わせたり、加工した加工食品、総菜、弁当などの形態のものもある。例えば、最終製品の重量比で、遺伝子組み換え作物の収穫物が何%以上を占めていれば、これを遺伝子組み換え食品とする、という客観的な基準はない。JAS法と食品衛生法による表示方法では5%以上と便宜的に規定している。一方、遺伝子組み換え作物は明確に定義できる。遺伝子組み換え食品の安全性評価として行われているのは、遺伝子組み換え作物の収穫物そのものの食品としての安全性評価である。

(川口啓明 科学ジャーナリスト / 菊地昌子 科学ジャーナリスト / 2007年)


遺伝子組み換え食品

遺伝子組み換え(GM)作物を用いて製造された食品。除草剤に強い大豆、トウモロコシ、ナタネ、害虫に強いトウモロコシ、ジャガイモなどがあり、日本では1996年から輸入されている。安全性に疑問があるという消費者などの声を受け、農林水産省は2001年4月から、日本農林規格(JAS)法の改正でGM農産物及びそれを原料にした食品に表示義務(例えば「大豆(遺伝子組み換え)」等)を実施。しかし、しょうゆ、食用油脂、マッシュポテト、ジャガイモ澱粉などは、加工工程で「遺伝子組み換えで生じたDNAやたんぱく質」が除去・分解されるとの理由から表示義務はない。海外ではGM作物の栽培が増加しているが、日本では06年の時点で食用作物は栽培されていない。

(的場輝佳 関西福祉科学大学教授 / 2007年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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